研究テーマ

昔、恩師から言われた一言「研究はテーマが全てだ」

同意。しかし良いテーマ設定は難しい。いくら自分が良いと思っていても、全くポジティブデータが出なかったり、そもそも全くのアーティファクトが出発点だったりすることに数ヶ月後に気がついて青ざめたり。

研究テーマを決めるステップには細心の注意を払いたいが、いつまでも警戒していては研究が始まらない。そこで僕はテーマを決定するにあたって、1つ心に決めている事がある。それは、はっきりした表現型を示す変異体をテーマの軸にもってくる事。曖昧な表現型のものは、それはそれで意味があるし、そこにこそ重要な意味が隠されているとも思うが、ちょっと躊躇してしまう。特に卒研生にやってもらうにはリスクが高い。表現型が強ければ、多くの実験結果も白黒はっきりした結果が出てくれるだろう。表現型が曖昧だと、黒とも白とも言えないグレーな実験結果が多いかもしれず、解釈に慎重さが求められる。そういう迷いをなるべく味わいたくないので、表現型がはっきりしたものを触るのが僕の方針。

 

昔、無能なPIからこんなテーマを与えられかけた。

自分の扱っている生物とは別の種で、あるタンパク質Aの分解制御に関わる酵素Bが知られており、その現象を自分の扱っている生物の酵素Bホモログでも試そう、というもの。

僕は、他の生物種の知見を自分の生物でも試すことは重要なことだと思う。面白いかは別として。しかし実際には、Bホモログをノックアウトしても、タンパク質Aが過剰に存在する際に現れるであろう表現型が現れないのである。僕はこの時点で撤退した。無能なPIは酵素BとBホモログの間に配列ホモロジーがあるから、機能ホモロジーがあると予想したのだが、これは予想というより妄想だ。表現型ではなく妄想がベースにあるテーマほど怖いものはない。この妄想に付き合わされ、学生さんが一人、怒られながら無駄な時間を費やしているのをみて、非常に虚しくなったのを覚えている。

その因子にこだわる根拠が一体どこにあるのか。自分の頭の中にあるとしたら大変危険。研究テーマを与える側は相当の注意をしなければならない。